Vol. 1 初めまして…? ・4

  • ユヅキ

    急ぐので、失礼しますっ。

  • キザキ

    あ。

  • キザキ

    お出かけするんだったね。

  • 悪びれる様子のない、むしろ楽しそうな笑顔。

  • それを見ていたら、むくむくと苛立ちが込み上げた。

  • キザキ

    …可愛いね、ユヅキちゃん。

  • ユヅキ

    っ、

  • ユヅキ

    そんなことはないですっ。

  • キザキ

    照れてる。

  • キザキ

    やっぱり、思ってた通り。

  • ユヅキ

    …、

  • こういった類の人は、きっとまともに相手にしないほうがいい。

  • というか、

  • できればこれ以上、関わりたくない。

  • むすっと口元を引き結んだまま、

  • 無言の会釈という一応は社会人の礼儀を示して、車に乗り込もうとした……

  • …のに。

  • キザキ

    その不機嫌そうな態度…、

  • キザキ

    なんだか引き留めたくなっちゃう。

  • ユヅキ

    っ!

  • ユヅキ

    ち、ちょっとっ、何するんですかっ、

  • 突然手を掴まれて、盛大に狼狽してしまった。

  • キザキ

    ユヅキちゃんの手、温かいね。

  • ユヅキ

    …、

  • 言いながら、私の手を包み込む大きな広い手。

  • 少しだけひんやりとしていて、

  • 長くて整った滑らかな指をしているのに、逞しくて。

  • そして、

  • 感じたことのない不可思議な動揺が幾重にも広がる。

  • キザキ

    あれ?

  • キザキ

    もしかして、

  • キザキ

    手を握られただけでも照れちゃう?

  • ユヅキ

    あ…あのですねっ、

  • ユヅキ

    初対面の男性にこんなっ、

  • ユヅキ

    こんな風に手を掴まれたら誰だって…、

  • キザキ

    誰もがみんな、

  • キザキ

    ここまで照れるとは思えないけど?

  • ユヅキ

    たっ…、

  • 『楽しげに笑うなっ!』

  • …と、

  • 思いのまま咎めることができたなら、どれほどスカッとするだろう。

  • さすがにそんなわけにもいかず、ぐっと言葉を飲み込んで、

  • ただただ悔しげに唇を噛んだ。

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