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ユヅキ
急ぐので、失礼しますっ。
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キザキ
あ。
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キザキ
お出かけするんだったね。
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悪びれる様子のない、むしろ楽しそうな笑顔。
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それを見ていたら、むくむくと苛立ちが込み上げた。
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キザキ
…可愛いね、ユヅキちゃん。
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ユヅキ
っ、
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ユヅキ
そんなことはないですっ。
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キザキ
照れてる。
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キザキ
やっぱり、思ってた通り。
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ユヅキ
…、
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こういった類の人は、きっとまともに相手にしないほうがいい。
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というか、
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できればこれ以上、関わりたくない。
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むすっと口元を引き結んだまま、
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無言の会釈という一応は社会人の礼儀を示して、車に乗り込もうとした……
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…のに。
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キザキ
その不機嫌そうな態度…、
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キザキ
なんだか引き留めたくなっちゃう。
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ユヅキ
っ!
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ユヅキ
ち、ちょっとっ、何するんですかっ、
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突然手を掴まれて、盛大に狼狽してしまった。
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キザキ
ユヅキちゃんの手、温かいね。
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ユヅキ
…、
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言いながら、私の手を包み込む大きな広い手。
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少しだけひんやりとしていて、
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長くて整った滑らかな指をしているのに、逞しくて。
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そして、
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感じたことのない不可思議な動揺が幾重にも広がる。
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キザキ
あれ?
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キザキ
もしかして、
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キザキ
手を握られただけでも照れちゃう?
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ユヅキ
あ…あのですねっ、
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ユヅキ
初対面の男性にこんなっ、
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ユヅキ
こんな風に手を掴まれたら誰だって…、
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キザキ
誰もがみんな、
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キザキ
ここまで照れるとは思えないけど?
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ユヅキ
たっ…、
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『楽しげに笑うなっ!』
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…と、
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思いのまま咎めることができたなら、どれほどスカッとするだろう。
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さすがにそんなわけにもいかず、ぐっと言葉を飲み込んで、
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ただただ悔しげに唇を噛んだ。
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