Vol. 8 守りたいもの ・1

  • キザキさんの探偵事務所の建替工事が進む中、

  • 現場の進捗状況を見に行く彼について行くことになった。

  • 正確には、非番だった私がちょうど大学病院へ行く用事があったために

  • 車で送ってあげるから一緒に行こう…と誘われたからだ。

  • ユヅキ

    …、失礼します。

  • バッグとノートパソコンを片手に、キザキさんが所有する車に乗り込む。

  • 事務所兼居宅が全焼したとき、

  • キザキさんはこの車で寝泊まりして過ごそうと考えたらしい。

  • 大きなワンボックスカーなどではない、ステーションワゴンのシボレー。

  • 長期間過ごすには窮屈で、体への負担もハンパないのは想像に難くない。

  • 『つまらないこと考えないで、甘えられる人に甘えればいいんですよ』

  • 思わず口を突いて出た私の言葉に、キザキさんは嬉しそうに笑っていた。

  • ユヅキ

    ……

  • 困っている人は放っておけないから。

  • そこは、父親譲りな思考だと思う。

  • …でも、もしも居候する人が、

  • ユヅキ

    (キザキさん以外の人、だったら…?)

  • ある程度許容して、今のようにその人と関わっていたのだろうか。

  • ユヅキ

    …、

  • そんな選択肢を勝手に散りばめては、

  • 考え込んでしまう日々が続いている気がする、今日この頃。

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