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ユヅキ
どれにします?
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キザキ
……
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ユヅキ
オレンジ・グレープ・メロン・アップル…、
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ユヅキ
ベタな種類ですけど、
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ユヅキ
サッパリした感じのものを選んで買ったので、
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キザキ
ユヅキちゃんが、珍しく食べたくなったんでしょ?
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ユヅキ
…、
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キザキ
自分で買って来たんだから、
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キザキ
まずは好きなものを選んで食べなよ?
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柔和に眦を細めた瞳の色が、
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王手を掛けるようにキラリと光沢を帯びた気がした。
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ユヅキ
……、
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少し思い惑ってから、ちらっとキザキさんを見る。
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ユヅキ
キザキさんの分も、買ってきたので…、
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キザキ
違う。
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ユヅキ
…っ、
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キザキ
僕の分も、じゃなくて。
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キザキ
僕だけのために、でしょ?
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キザキ
『お酒を飲みすぎたときに食べたくなることがある』だなんて嘘。
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ユヅキ
——…
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キザキ
熱がある僕に食べさせてあげようって、思ってくれたんだよね?
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目に見えて口ごもってしまった私に、キザキさんは途端に切なげに瞳を揺らした。
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キザキ
…――
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彼の整った長い指先が、一瞬だけ私の頬に細やかに触れて
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そして名残惜しそうにゆっくりと離れる。
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キザキ
アイス…、
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キザキ
食べたくもないのに選べって言われても、困っちゃうよね?
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ユヅキ
っ…、
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キザキ
ありがとね、ユヅキちゃん…。
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キザキ
きっと、僕のことが心配だったから、
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キザキ
早く帰ってきてくれたんだよね?
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ユヅキ
——そ、そんなんじゃない…です…
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キザキ
ほんとは最初から、二次会へ行くつもりもなかったんでしょ?
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ユヅキ
ち、違うってば、行くつもりだったけど…、
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キザキ
ふーん?
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ユヅキ
アイス屋さんが…、
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キザキ
まだ言う?
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見抜いていますと言わんばかりに、キザキさんはクスクスと笑った。
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キザキ
お酒も、
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キザキ
同窓会は楽しかったみたいだから、良いお酒だったのかもしれないけど…、
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キザキ
酔いが回りやすくなっちゃうほどの飲み方を選んだ理由が、
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キザキ
キミの中にあったのかな?
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ユヅキ
——べ、別に…、
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キザキ
これもビンゴ。
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ユヅキ
…、
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キザキ
あまり無茶しないでね?
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キザキ
…心配でたまらなくなるから。
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ユヅキ
……
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ユヅキ
(やっぱり、全部バレちゃうんだな…)
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諦めたように、ちょこんと項垂れて。
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いつものように<余計なお世話だ>と言い返すことができないのは、
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きっと、酔っ払ってて心がおおらかになってるから。
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ユヅキ
……
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それに今は、
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キザキさんのしっとりとした低音が、なんだかとても耳に心地よくて。
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ユヅキ
…心得ておきます…
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おとなしく寝かし付けられる子どものように反論もせず、
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素直にその言葉を受け入れる。
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キザキ
…ほんとにありがとう、ユヅキちゃん。
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ユヅキ
……、いえ。
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嬉しそうなキザキさんの笑顔を眩しく感じてしまう自分に胸の内で戸惑いながらも。
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その心のどこかで、
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この人には敵わないのかもしれない、と思い始めていた。
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Vol. 7 END
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