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ユヅキ
っ、…もう、
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ユヅキ
あと少しなんだけど…っ、
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ようやく見つけた目当ての本は書棚の一番高い位置にあり、
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あとほんの数センチの手が届かない距離がもどかしくて、むくれたように上を凝視する。
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ユヅキ
これは踏み台がいるな…、
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キザキ
どれが欲しいの?
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ユヅキ
…!?
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キザキ
これ?
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ユヅキ
…――!
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今では聞き慣れつつある声色に咄嗟に振り返れば、
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さっき別れたばかりの人物が緩く微笑んで書棚に手を伸ばそうとしていた。
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ユヅキ
キ、キザキさん…、
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ユヅキ
ここでなにやってるんですかっ。
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キザキ
うん?
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ユヅキ
仕事、どうしたんですか、
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キザキ
もういいよ、ある程度片付いたから。
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ユヅキ
そんな…、
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ユヅキ
適当ですね。
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キザキ
そうでもないよ?
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キザキ
何週間もかけての調査だったし。
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ユヅキ
…それはそれは。
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ユヅキ
お疲れ様ですね。
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キザキ
どうも。
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キザキ
それより、欲しい本はどれ?
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ユヅキ
いいです、もう。
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キザキ
え、どうして?
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ユヅキ
……別に。
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キザキ
やっぱり、なんだか機嫌が悪いね。
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ユヅキ
気のせいです。
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ユヅキ
それじゃ。
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なんだか居心地が悪くて立ち去ろうとした私を、キザキさんの質問が追いかけてくる。
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キザキ
えっ、本は買わないの?
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ユヅキ
だから、もういいんです、
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ユヅキ
また今度にしますから。
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キザキ
そう…、
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キザキ
じゃあ、一緒に帰ろう?
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ユヅキ
いえ、一人で帰ります。
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どうしても冷たくあしらってしまいながら、その場を離れようと一歩踏み出したのに、
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いきなり伸びてきた長い腕と広い手が私の手首を絡め取った。
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ユヅキ
ちょっ…、
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ユヅキ
なにするんですか…っ
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キザキ
一緒に帰ってくれなきゃ、拗ねるよ?
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ユヅキ
す、拗ねる?
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キザキ
そう。
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キザキ
僕が拗ねる。
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ユヅキ
…ったく、なにを言ってるんですか。
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キザキ
僕に起きる子どもっぽい現象を言ってる。
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キザキ
…だから、一緒に帰ろう?
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そっと小首を傾げて、ちょっぴり甘えるような瞳の色。
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甘え上手なこの目はほんとに卑怯だ。
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ユヅキ
そういうの、ほんっっとに、困るんですけど。
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渋面を顔に刻んで抵抗の意思を示してみたが、
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キザキさんは控えめになるどころか
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掴んだ手首をグッと引っ張って自分の胸元に私を引き寄せた。
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