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ユヅキ
では、そういうわけで、失礼します。
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キザキ
そういうわけってどういうわけなの?
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ユヅキ
……別に、気にしないでください。
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キザキ
あ、ユヅキちゃん、待って。
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ペコリと頭を下げて踵を返そうとした私を、キザキさんの声がその場に縫い留める。
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ユヅキ
…なにか?
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キザキ
ちなみに、この子は事務所のスタッフさんなんだ。
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キザキ
恋人のフリして偵察中。
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ユヅキ
……、
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キザキ
今回の仕事は、単独で入り込むには難しい場所が多くて。
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ユヅキ
……
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透明度の高い弁明に再び女性を一瞥すれば、そのことを裏付けるように、
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品のある振る舞いでありながらも強めの相槌を打っていた。
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ユヅキ
……
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なのに、
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その事様を見ても、どういうわけか素直になれない。
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ユヅキ
…別に、
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ユヅキ
どうでもいいですけど。
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キザキ
ユヅキちゃん、なんだかいつもと様子が…、
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ユヅキ
いつもと同じですよ。
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キザキ
でも、
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キザキ
少し機嫌が悪いみたいに見――
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ユヅキ
目の調子でも悪いんじゃないですか?
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ユヅキ
急ぐので、失礼しますっ。
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キザキさんの推考を遮るように素早く切り返すと、パッと背を向けてスタスタと歩いた。
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ユヅキ
……
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ユヅキ
(いちいち弁解なんて…、)
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ユヅキ
(もうそういうのいいから、ほんとに)
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ユヅキ
……、
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ユヅキ
でも、なんだか…、
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ユヅキ
(私、ちょっとだけ、ホッとしてない…?)
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ユヅキ
……
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ぷかぷかと浮いてくる思料に、横断歩道の赤信号を自然と睨んでしまう。
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ユヅキ
(弁解なんていらないはずなのに…、)
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ユヅキ
(弁解してくてれて、ちょっと嬉しかったっていうか…)
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どうして心の隅っこから小さな満足感がじわじわと広がってくるのか、
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それがもう、自分の中では謎すぎて。
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ユヅキ
…っ、疲れる、
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ユヅキ
考えるの止めよう…。
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はあ…っと大きく息を吐き出して肩を上下させてから、
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心の中を不器用に整理する。
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ユヅキ
慣れないことを考えるものじゃないな…
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滑稽な自分に、ふふ…と短く笑うと、
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お気に入りのショルダーバッグを肩に掛け直して、
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青信号になった横断歩道をサクサクと渡り、辿り着いた書店の入り口をくぐった。
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