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ユヅキ
冷蔵庫の余り物で作るから、
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ユヅキ
どんなものでも文句は言いっこなしでよろしく。
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イシバ
仕方ない、
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イシバ
ユヅキの手料理だ、どんなものだとしても付き合ってやる。
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キザキ
上から目線でよく言うよね…
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キザキ
内心では、ユヅキちゃんの手料理を食べられて、
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キザキ
飛び上がるほど嬉しいくせに。
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イシバ
黙れ。
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ユヅキ
ああもうっ、うるさいなあ、
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ユヅキ
いちいち揉めるな、二人ともっ!
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リビングのソファーに一旦腰掛けた二人の会話を、火を噴くような声調で分断する。
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ユヅキ
(なんだか、子どもが二人いる母親みたいな心境だ…)
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なんて思いつつ、
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冷蔵庫の中を物色しながら食材を見繕っていると、
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背後からキザキさんが歩み寄ってきた。
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キザキ
ね、なにか手伝おうか?
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ユヅキ
大丈夫ですよ、座っててください。
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キザキ
……、
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返事をしないキザキさんに振り向くと少し落ち着かない様子で、
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その姿を目にして思わず口元が綻んだ。
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ユヅキ
ふふ、
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ユヅキ
キョウヤと二人だと気を遣いますか?
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キザキ
んー…、
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キザキ
気を遣うってわけじゃないんだけど、
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キザキ
イシバくんと二人でいると
つい言い合いになっちゃうから。 -
キザキ
ユヅキちゃん、
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キザキ
こっちを気にしながらの料理になると大変かなと思って…。
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ユヅキ
……
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ユヅキ
(なるほど、そういうことか…)
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ユヅキ
キザキさんって、ほんとによく気が利きますよね。
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キザキ
そう?
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キザキ
別に普通だと思うけど?
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普通よりは逸脱してるんじゃないかと思いながらも、
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少しだけ破顔して、調理台の玉ねぎを差し出した。
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ユヅキ
じゃあ…、手伝ってもらえます?
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キザキ
うん!
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野菜を洗ったり、
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卵を割ってかき混ぜたり、
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お皿を取り出してもらったり。
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簡単な調理補助の指示をして、
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普段あまり料理をしないわりには、なかなかの手際の良さでお昼ご飯を仕上げていく。
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ユヅキ
――よしっ、できた!
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しばらくして、
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ふんわりとおいしそうに出来上がった三人分のオムライスに、我ながらいい出来だと目を細める。
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バターライスを包んでいる薄焼き卵もどれも形よく、破れていない。
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ユヅキ
これは今まで作った中で、一番の出来だなー。
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ちょっぴり浮かれてしまいながら出来栄えに満足していると、
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隣で同じようにオムライスに視線を投じていたキザキさんが
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少し甘えるように私の腕を肘で小突いてきた。
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キザキ
…ねえ、ユヅキちゃん。
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キザキ
僕のオムライスに、
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キザキ
ケチャップでハートマーク描いてくれない?
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ユヅキ
……ドクロマークなら上手に描けますけど?
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意地悪く口角を上げて言うと、
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キザキさんは拗ねたように唇を尖らせてから、諦めたように笑った。
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︙
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ユヅキ
さて、いよいよ実食タイムですよ。
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オムライスをトレイに乗せてテーブルに運ぼうとした矢先、
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キョウヤが静かにキッチンに現れて。
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熟思するように表情を引き締めたその顔色を見て、なにかあったのだと一瞬で悟る。
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ユヅキ
キョウヤ?
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ユヅキ
どうしたの?
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イシバ
時間がなくなった。
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ユヅキ
えっ、…もう?
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イシバ
たった今、秘書から連絡があった。
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イシバ
当初予定していたよりも、
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イシバ
先方との打ち合わせの時間が繰り上がったらしい。
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事情を説明しただけで、それ以上口を閉ざしたキョウヤは
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背を向けて立ち去ろうとする。
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ユヅキ
…あ!
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ユヅキ
ちょっと待って!
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イシバ
……
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私の引き留める声にも振り向くことなく、
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キョウヤはそのまま無言で玄関まで歩みを進めた。
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キザキ
ユヅキちゃん、コレ…、
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ユヅキ
…、
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さすがのキザキさんも、
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キョウヤがオムライスを口にすることなく帰ることになってしまったことを、気の毒に思ったのだろう。
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キザキ
……、
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キョウヤの分のオムライスのお皿を丁寧に手に持ち、
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困惑したように顔を曇らせていた。
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