Vol. 5 ありきたりなエール ・3

  • キザキ

    イシバくんとは、

  • キザキ

    アメリカの大学にいたときに知り合ったんだよ。

  • ユヅキ

    …ってことは、

  • ユヅキ

    キザキさんの通ってた大学って、ワシントン大学ですか?

  • ユヅキ

    (もしかして、キザキさんが少し前に私のことを知ったっていうのは、)

  • ユヅキ

    (アメリカにいたときなのかな…?)

  • 実はキョウヤと出会ったあのパーティ会場に居たとか。

  • 瞬間的に思いついた事柄を、先の質問にこっそり託してみた…

  • …けど。

  • キザキ

    うん、

  • キザキ

    もともとは日本の大学にいたんだけど、途中から少しの間だけ通ってたんだ。

  • キザキ

    ちゃんと通学したイシバくんとは違って、

  • キザキ

    僕はすぐに辞めちゃったけどね。

  • ユヅキ

    ……

  • 彼のその答えに、憶測は違ったと感じ取る。

  • すぐに大学を辞めたなら、ニアミスすらなかっただろう。

  • キザキ

    ほんとはきちんと通うつもりだったんだけど…。

  • ちょっぴりバツ悪く目尻を歪めたキザキさんに、キョウヤは愚弄するように低音を紡いだ。

  • イシバ

    ひょっこり大学に現れたかと思ったら、

  • イシバ

    半年も経たないうちに、尻尾を巻いて日本へ帰った愚かな男だ。

  • キザキ

    失礼だなあ、

  • キザキ

    僕なりのちゃんとした理由があったんだよ。

  • イシバ

    英語力が乏しいことから授業レベルについて行けず、

  • イシバ

    恥をかく前に姿を消したのかと思っていたが?

  • キザキ

    やめてよ、勝手にそんな憶測立てるの。

  • イシバ

    では、

  • イシバ

    いきなり大学を辞めた理由はなんだ?

  • キザキ

    教えない。

  • イシバ

    ……

  • ユヅキ

    ……

  • 張り付かせていた表情が完全に冷笑に切り替わったキザキさんと、

  • みるみるうちに苦り切った顔つきになるキョウヤを見比べるようにして話を追っていたが、

  • まるで子どものような言い合いが無限に続くようで。

  • ユヅキ

    なんでもいいよ、もう…。

  • 大袈裟に肩を落として長嘆息すれば険悪なムードも幾分変わるのではないかと思って、試してみる。

  • キザキ

    ……

  • イシバ

    ……

  • すると、思いのほかすぐに悶着は収まり、

  • 二人揃って閃いたように目を見開いた。

  • キザキ

    《そうそう、ユヅキちゃん、今からお昼ご飯食べに行かない?》

  • イシバ

    《そうだ、ユヅキ、俺とランチに行くぞ》

  • ユヅキ

    ……

  • 二人の声が綺麗に重なって、まるでハーモニーのようになる。

  • ユヅキ

    あのさ…、

  • ユヅキ

    私は聖徳太子じゃないんだからさ、

  • ユヅキ

    一人ずつ話してくれないかな?

  • キザキ

    ……

  • イシバ

    ……

  • ユヅキ

    …二人とも、聞いてる?

  • キザキ

    《お昼ご飯食べに行こうよ》

  • イシバ

    《ランチに行くぞ》

  • ユヅキ

    また重なってるよ…。

  • ユヅキ

    ある意味、二人ともすごく気が合うんじゃないの?

  • ちょっぴり茶目っ気を滲ませてそれぞれを眺めたが、

  • 当の二人はそんなことにちっとも気付かない様子で。

  • イシバ

    キザキ…おまえは少し黙っていろ。

  • イシバ

    俺には許されている時間が限られているのだ。

  • キザキ

    許されている時間って…、いかにもって感じだね。

  • イシバ

    会社が決めたスケジュールに沿っているだけだ。

  • イシバ

    自由奔放なおまえとは違って、
    俺は背負うものが大きいからな。

  • キザキ

    なにそれ、分かりやすく自慢?

  • イシバ

    馬鹿げたことを言うな。

  • キザキ

    あのね、

  • キザキ

    僕だって久しぶりの休日なんだから、

  • キザキ

    ユヅキちゃんと二人でランチを楽しみたいんだけど。

  • イシバ

    昼飯くらい、自分だけで適当に食えばいい。

  • キザキ

    そういうイシバくんこそ一人で食べなよ。

  • キザキ

    …お金持ちっていいよね。

  • キザキ

    豪華な食事、独り占めできて羨ましいなあ。

  • イシバ

    相変わらず口の減らない奴だ。

  • キザキ

    今でも変わることなく、ずっと俺様なんだ?

  • キザキ

    周りに仕えてる人はみんな大変だろうなあ。

  • イシバ

    ……

  • キザキ

    ……

  • それはもう、チクチクとした諍いが続いて。

  • 大学時代に、この二人の間にいったいなにがあったのかは分からない。

  • そもそもなにもなかったけれど、ただ単に反りが合わないだけかもしれない。

  • ユヅキ

    (これは、ほんとに…)

  • こういう人たちのことを、見事なまでに、犬猿の仲というのだろう。

  • ユヅキ

    あのさ、

  • 指先でカリカリと頭を掻いてから、不機嫌そうに目元を引き締める。

  • ユヅキ

    悪いけど、

  • ユヅキ

    お昼ご飯、食べになんか行かないよ。

  • キザキ

    えっ。

  • イシバ

    …っ、

  • ユヅキ

    外には食べに行かない。

  • わざと冷ややかな口調を意識して告げれば、二人はわずかばかりうろたえた様子で口を噤む。

  • ユヅキ

    今、お母さん留守だし、自分で何か作って食べるよ。

  • キザキ

    ……

  • イシバ

    ……

  • 黙り込む二人を諌めるようにしばらく見据えていたが、

  • なんとなくかわいそうになってきたから、用意していた助け舟を差し向けた。

  • ユヅキ

    今なら、

  • ユヅキ

    先着2名様に限り、お昼ご飯を進呈中…、

  • キザキ

    …えっ、

  • イシバ

    …、

  • 二人の様相を注視しながら、小さな喧嘩両成敗を進行する。

  • ユヅキ

    どうする?

  • ユヅキ

    私が作った料理になるけど、

  • ユヅキ

    うちで仲良く一緒にお昼ご飯食べる?

  • キザキ

    …、

  • イシバ

    …、

  • 私の提案に、キザキさんもキョウヤも最初は意地を張るように表情を硬くしていたけれど。

  • キザキ

    ……

  • イシバ

    ……

  • 各々納得したのか、次第に彼らの相貌に柔らかさが戻った。

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