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彼に出会ったのは、私がジョンズ・ホプキンス大学に在学中の18歳のとき。
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日本の留学生同士の親睦を深めるためのちょっとしたパーティーに、彼も来ていた。
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そのときの彼の無愛想な表情は、この場に仕方なく出向いた…といった感じで。
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けれど、パーティー会場内で、
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どんなに目立たない一角で佇んでいても、
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その眉目秀麗な容姿は人々の目を惹きつけていた。
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ただ、
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その形のいい唇から繰り出される尊大さには、強烈なギャップ。
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彼は、飲食店やリゾートホテルをいくつも経営する企業の御曹司で次期後継者でもあり、
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当時、アメリカのワシントン大学に経営学を学ぶために留学していて。
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社交の場に慣れるためにも、
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パーティーなどの会合にはどれだけ不本意でも出席しなければならないのだと、不服そうに言っていた。
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彼の名は、石羽響也(イシバ キョウヤ)。
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私より4つ年上で、当時22歳だった。
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パーティーの時、貧血で倒れた女性をともに介抱したことがきっかけで、
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互いに友人と呼べる間柄になったのだけど。
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ユヅキ
…、
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『何を我関せずで突っ立ってんだ! 黙って見てないで運ぶの手伝え!』
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…いや、正確に言えば、
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介抱する前に、
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倒れた女性のすぐ近くにいた彼に対して私が怒鳴りつけたことが、
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友達になった一番のきっかけと言えるだろう。
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今思えば、
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初対面の人に対してとんでもない態度を晒したと言えるが、
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医者の卵だった当時から、命を救うという情熱だけは誰にも負けなかったんだと自負しながら、
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あのビターな一場面は胸にしまっている。
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キョウヤは、ワシントン大学卒業後もアメリカに滞在し、
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そこに点在するリゾートホテルの経営などを担っている。
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時折、キョウヤとはL◯NEなどのやり取りをしているが、
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今回、日々多忙な彼が仕事で日本に一時帰国することになったらしく、
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空港からの突然の電話に驚きつつも、久しぶりの再会を嬉しく思っていた。
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ユヅキ
……
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ユヅキ
…、
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…そういえば、キザキさんの素性をほとんど知らない。
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私のことを少し前から知っていると言っていたけど。
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ユヅキ
……、
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別にどうでもいいことなのに、ふとそんなことがよぎる。
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同じ屋根の下で暮らしているのだから、
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ある程度のことは知っておいてもおかしくはないだろうと思う気持ちが、
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徐々に膨らみを増しつつある。
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…どうして、そんなことを思うのか。
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ユヅキ
(どうでもいいことなのに…)
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そう心の中に浮かんでは消えての繰り返しが増え始めている、
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今日この頃。
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