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キザキ
おいしいね。
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キザキ
ユヅキちゃんが作ったの?
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ユヅキ
…母と一緒に。
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キザキ
そうなんだね。
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キザキ
…ほんとにおいしい、体も温まるよ。
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ユヅキ
それはよかったです。
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満足げに箸を進めるキザキさんの向かいの席で、静かにホットコーヒーを飲む。
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キザキ
やっぱりいいな。
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ユヅキ
…なにがです?
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キザキ
一人でご飯を食べるのも当たり前だったから、
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キザキ
嬉しいなって。
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ユヅキ
……
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キザキ
眠くない?
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ユヅキ
…大丈夫です。
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そう、眠くはない。
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『嬉しい』の連発には少し戸惑うし、
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なんだかちょっと緊張するけど。
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キザキ
ユヅキちゃん、ほんとに優しいよね。
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ユヅキ
またそんなこと言ってる…、
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ユヅキ
私はイジワルです。
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キザキ
あははっ、
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キザキ
相変わらずの切り込みだね。
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ユヅキ
(…声を立てて笑いすぎっ)
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そうツッコミそうになるも、
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眉根をピクリとさせただけに留まる。
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よく考えたら別にどうでもいいことだし、ここは静観を決め込んだ。
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キザキ
じゃあ、聞いてもいい?
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ユヅキ
…なんですか?
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キザキ
すぐにでも部屋に戻ればいいのに、
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キザキ
どうしてここで、コーヒーを飲んでるの?
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ユヅキ
それは別に…、
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ユヅキ
コーヒーが飲みたくなったから。
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キザキ
うん。
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ユヅキ
もともとコーヒーが好きだし。
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キザキ
うん、知ってる。
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ユヅキ
寒い冬のホットコーヒーは格別だし。
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キザキ
うん、分かる。
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キザキ
それから?
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ユヅキ
『それから』…?
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キザキ
うん。
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キザキ
他には?
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ユヅキ
……、
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ユヅキ
あとは…、
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ユヅキ
縫合の練習でも…ちょっとだけ疲れたし…?
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ここまで掘り下げて聞いてくるとは思わなくて、誰もが言いそうなありがちな理由を思い付いて並べてみたが、
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キザキ
ううん、違う。
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ユヅキ
えっ?
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キザキさんは、まるで一刀両断するように否定して首を振った。
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キザキ
キミが、患者さんに関することで疲れたなんて思うわけがない。
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ユヅキ
…!
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キザキ
どれだけ徹夜が続いても文句ひとつ言わずに頑張れるのは、
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キザキ
患者さん第一の想いがあるからでしょ?
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ユヅキ
――…
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キザキ
縫合の練習だって、
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キザキ
何よりも患者さんのことを想ってやってるのに。
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ユヅキ
――
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ちょっとだけ、絶句。
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私の医師として抱く情熱を、
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この人がここまで知り得ていることに驚いてしまう。
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キザキ
…付き合ってくれてるんでしょ、僕に。
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キザキ
練習の傍ら、待っててくれたんだよね?
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ユヅキ
…、
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キザキ
遅くに帰ってきた僕が、寂しく思わないように。
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ユヅキ
…———
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『うん…』と、従順に頷くことはできなかったが、
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<見透かされている>といういつもの不快な解釈とは違って、
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不覚にも見抜かれたことに感心してしまった。
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ユヅキ
(…ほんとにヤバいくらい鋭いんですけど…)
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けれど、そのことに勘付かれたくなくて、
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真意を隠そうとすればするほどぎこちなく浮遊する視線を晒してしまい、内心であたふたしてしまった。
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