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キザキ
…あれ?
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キザキ
ユヅキちゃん、まだ起きてたんだ。
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ユヅキ
…、おかえりなさい。
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キザキ
ただいま。
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首元のマフラーをほどきながら、口から吐き出されたキザキさんの息はまだ白い。
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ユヅキ
(風邪、引かなきゃいいけど…)
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外の寒さを推し測りながら、暖炉の炎をこっそり一瞥した。
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キザキ
大丈夫だよ、
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キザキ
そんなに寒くないから。
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ユヅキ
えっ、
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キザキ
暖炉の火、ちょうどいいよ。
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ユヅキ
……
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ユヅキ
(相変わらず鋭い…)
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探偵ゆえなのか、観察眼というか勘というか
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それらが抜かりなくてほんと手強い。
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キザキ
こういうのっていいね。
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ユヅキ
…え?
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キザキ
ここに居候させてもらうまでは、
いつも真っ暗な部屋に帰ってたから。 -
ユヅキ
……
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キザキ
ユヅキちゃんのおうちって、僕の帰りがどんなに遅くても、
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キザキ
ずっと電気をつけたままでいてくれるでしょ?
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ユヅキ
…、
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キザキ
それがとても嬉しかったんだけど、
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キザキ
今日はそこにユヅキちゃんがいてくれたから、尚嬉しいよ。
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ユヅキ
……
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ユヅキ
…なんだかいつもより、さらに饒舌ですね。
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一息の間の後、皮肉めいて言ったつもりだったけれど、
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キザキさんは気にも留めていない様子でニコニコと続ける。
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キザキ
だって嬉しいし。
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キザキ
仕事もうまく片付いたからかな。
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ユヅキ
…そうですか。
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キザキ
うん。
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ユヅキ
仕事の方はお疲れ様でした。
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ユヅキ
…そういえば、
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『もう晩御飯食べました?』
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と、サラリと話題を変えて立ち上がる。
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キザキ
…晩御飯?
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ユヅキ
はい、
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ユヅキ
食べました?
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キザキ
ううん、まだ食べてない…、
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キザキ
食べる暇がなかったから。
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ユヅキ
……あの、
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ユヅキ
今日、すき焼きしたんですけど、
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キザキ
へえ、いいなあ。
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ユヅキ
それで…、
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ユヅキ
一応、キザキさんの分を取り分けてあるんですけど…
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ユヅキ
食べます?
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キザキ
ほんとに?
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キザキ
食べる!
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ユヅキ
鉄鍋じゃなくて、一人前用の土鍋に取り分けてあるんですけど、
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ユヅキ
味はちゃんとすき焼きですから。
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キザキ
いいよ、そんなの気にしないから。
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キザキ
…きっと、ユヅキちゃんが取り分けてくれたんでしょ?
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ユヅキ
…まあ、そうですけど…
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キザキ
なら、どんなものでもおいしい。
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ユヅキ
……
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無垢という形容がぴったりの明るい笑顔がやけに眩しく見えて、
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キザキさんの言葉を敢えて受け流すようにしてキッチンへ向かった。
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ユヅキ
……
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取り分けておいた土鍋をチラリと見遣ってほんの少し逡巡した後、
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ガスレンジのスイッチを入れる。
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ユヅキ
温めるので、座って待っててください。
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キザキ
え、いいの?
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キザキ
そこまでしてもらっても。
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ユヅキ
…、
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ユヅキ
(確かに、そこまでする必要はないか…)
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疲れているだろうからと、余計な情けをかけるとややこしくなる。
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特にこの人は、調子に乗りそうなのが目に見えているから。
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ユヅキ
やっぱり、自分でやってもらえます?
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ガスレンジから少し後方に下がって土鍋を指差した…が。
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キザキ
イヤ。
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ユヅキ
えっ!?
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ユヅキ
嫌って…、
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キザキ
ユヅキちゃんに温めてもらいたいな。
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キザキ
…甘えてもいい?
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ユヅキ
え、あの…、
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まさか嫌だとはっきり切り返されるとは思ってもみなくて、
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つい分かりやすく狼狽えてしまった。
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キザキ
お願い、ユヅキちゃん。
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小首を傾げるようにして縋るキザキさんは、
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女子である私なんかよりもずっと甘え上手だと思う。
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母性だったり父性だったりをくすぐるというか、
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こんな私でさえ、いろんなことを許容しそうになる。
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ユヅキ
……、
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ユヅキ
仕方ないな、やりますよ。
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キザキ
やったっ。
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まるで子どものように破顔するキザキさんとは真逆に
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やれやれと息を吐き出した私は、土鍋にそっと視線を落とした。
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