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冬の夜、
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帰り着いた家に明かりが灯っていなかったら、
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なんとなく、嫌かなと思っただけ。
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自分だったらやっぱりちょっと、寂しいから。
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ユヅキ
……
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休日の夜、私は縫合の練習に時間を費やしていた。
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壁時計の秒針の音だけがBGMになっている静寂の中で、
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皮膚縫合トレーナーと向き合う時間が過ぎていく。
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救命医療は、時間との闘いでもあるために
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普段から的確な手術をこなした上で、素早い縫合技術が求められる。
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今までに幾つもの手術をこなしているとはいえ、
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手指が、中材である指針器などに未だ慣れていないのではないかと
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当惑と錯覚に陥ることがあって。
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そんなときは、いつも一人で黙々とその不安を取り除く。
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ユヅキ
……、
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手術を受ける患者さんの負担を少しでも失くしたい。
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救命病棟から一般病棟へと移る患者さんの笑顔を思い返せば、
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縫合の練習が何時間続いても疲れ知らずで気合が入った。
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ユヅキ
…ふぅ、
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深夜2時。
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キザキさんは今夜、仕事で帰りが遅くなるらしいと父から聞いていた。
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事務所が火事で全焼していても、手元に残った依頼書だけは活きているために
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万全の砦がなくても仕事に専念しなければならないからだ。
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探偵という仕事がいったいどういうものなのか知る由もないけど、
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昼夜を問わず労力を消耗するその職務には、それなりの苦労も伴うだろう。
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ユヅキ
……
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まだ帰らないキザキさんの姿を思い浮かべれば、
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寒空の下、体調など崩さないだろうかと少しは気になる。
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医者だから、一応は心配する。
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ユヅキ
(…そう、医者だからね)
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ユヅキ
……、
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そう思った途端にふと巡る、キザキさんのあの笑顔にちょっぴり落ち着かなくなる。
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ユヅキ
……
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ああいった人は周囲にはいなかったからきっと免疫がないんだと
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自分に言い聞かせながらも。
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未経験で、
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不可思議な感覚が心に燻りを見せる日々が続いている、今日この頃。
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