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キザキ
……うん、そうかもね。
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ユヅキ
『かも』じゃない、そうなんです。
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キザキ
……
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そっとバスタオルを取り去ったキザキさんは、上体を屈めて私に視線を重ねる。
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ユヅキ
…、
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なんとなく気まずくて、逃れるようにふいっと顔を背けた。
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キザキ
小さい頃の家族ぐるみの付き合いを除けば、
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キザキ
ユヅキちゃんは、
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キザキ
僕に会ったことが、今回が初めてだって思ってるでしょ?
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ユヅキ
……それが何か?
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キザキ
僕はね、違うから。
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ユヅキ
え?
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キザキ
キミは全然気付いてないけど、
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キザキ
僕はもう少し前から、
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キザキ
大人になったキミのことを知っていたから。
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ユヅキ
…え、
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キザキ
だから、
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キザキ
気にしちゃうんだよね、キミのこと。
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ユヅキ
……、
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ユヅキ
(どういう意味なの、それは…)
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弾けた疑問符を手繰り寄せてキザキさんに視線を戻せば、
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どこか切なげな彼の瞳と交差した。
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ユヅキ
(……待って、)
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ユヅキ
(そんな感じの眼差しは、ちょっと卑怯だ…)
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途端に、自分の無愛想な態度を諫めてしまう。
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言い方、ちょっとキツかったかな…とか。
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吐き出した言葉はもう取り消しが効かないけど、
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もしも自分の態度で少しでも悲しい思いをさせてしまっていたとしたら、やっぱり心苦しい。
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ユヅキ
…、
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けれど、
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素直に謝りの言葉ひとつくらい言えばいいのに、それができない自分は可愛げがなくて。
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ユヅキ
……
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せめて普段通りの会話を続けることができればと、
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そう思って二の句を紡いだ。
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ユヅキ
…探偵さんだから、調べて知ったとかですか?
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キザキ
詳しいことは、また今度教えてあげるね。
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ユヅキ
……なんですか、それ。
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キザキ
気になる?
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ユヅキ
普通は気になりませんか?
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キザキ
そうかもしれないけど…、
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キザキ
また今度ね。
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ユヅキ
……
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この人の飄々とかわすような言い草が気に入らないから、無駄に悶々としてしまうけど。
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ユヅキ
……ま、いっか。
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私の言い方だったりで、いちいち傷付いてないならそれでいい。
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キザキ
ユヅキちゃん、
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キザキ
やっぱり思った通りの子だなあ。
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ユヅキ
…、何がです?
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キザキ
優しいよね、とても。
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ユヅキ
…は?
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ユヅキ
それ、さっきからの話の流れに関係あります?
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キザキ
あるよ。
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キザキ
僕に対して態度が悪かったとか、
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キザキ
さっきから思ってたでしょ?
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ユヅキ
――
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ユヅキ
(なんでこう、あっさりとバレるんだろう…)
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キザキ
図星だ。
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ユヅキ
ち…、違いますっ、
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ユヅキ
全然、そんなこと思ってなんか――…、
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キザキ
分かりやすい子って大好き。
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ぽん、と。
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キザキさんの大きな手が、私の頭に優しく乗せられた。
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さりげなく緩く髪を撫でる手つきに、クスクスと小さな微笑がブレンドされていて。
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ユヅキ
じょ、冗談やめてもらえます!?
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キザキ
ほんと照れ屋で意地っ張りだなあ…、
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キザキ
これも思った通り。
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ユヅキ
うるさいのっ。
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赤く熱を持ち始めた頬を見られたらマズイ。
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楽しそうに笑うキザキさんにくるりと背を向けて、逃げるようにバスルームに向かった。
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ユヅキ
(…っ、やっぱり、)
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ユヅキ
(調子狂うよ、もう…っ)
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やっぱり、この世には、無駄にしてもいい<一期一会>はあるんだ…と。
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心で強く思い巡らせながら。
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Vol. 3 END
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