Vol. 3 Rainy Day ・2

  • 雨降りの夕暮れ時、

  • 帰路に就こうと病院の玄関ホールで佇む看護師のサクラを見つけた。

  • 雨空を見上げる小柄なその姿に、静かに歩み寄る。

  • ユヅキ

    今日はもう上がりなんだね、お疲れ様。

  • サクラ

    あ!

  • サクラ

    ユヅキ――、…先生、

  • ユヅキ

    ふふ。

  • ユヅキ

    一応ここは病院だから、先生って呼ぶのは仕方ないか。

  • そっと眦を歪めて笑いかけた。

  • 私がこの大学病院に勤務することになった際、

  • 同世代のサクラはすでに看護師として働いていて、出会ってすぐ意気投合し、友達になった。

  • ユヅキ

    雨だね。

  • サクラ

    うん…。

  • ユヅキ

    いきなり降り出して、

  • ユヅキ

    傘がないからどうしたものかと困ってる子を発見したんだ。

  • サクラ

    …え?

  • ユヅキ

    はい、これ。

  • 一本の傘を手渡すと、

  • サクラは驚いて恐縮しながら、受け取れないといった風に手を振った。

  • サクラ

    これはユヅキ先生の傘なんじゃ…、

  • ユヅキ

    私は車だから大丈夫。

  • ユヅキ

    バス停まではちょっと距離があるし、使いなよ。

  • サクラ

    駐車場までだって結構距離があるよ?

  • サクラ

    先生だって濡れちゃう。

  • ユヅキ

    私が帰る頃には止んでるよ。

  • ユヅキ

    …でも今は、なかなかの大粒の雨だ。

  • 傘を押し戻そうとするサクラをさらりと交わして、降りしきる雨を手のひらで受けた。

  • ユヅキ

    冬の雨って冷たいなあ。

  • ユヅキ

    バス停まで傘がなかったら、確実に風邪引くよ。

  • サクラ

    小走りで行くから大丈夫だよ。

  • ユヅキ

    もしも滑って転んだら、それこそ大変だ。

  • サクラ

    でも、

  • ユヅキ

    医師命令です。傘を使うように。

  • 冗談めいて、それでいて凛と告げれば、

  • サクラ

    ……、

  • サクラ

    …分かりました。

  • サクラ

    ありがとう、ユヅキ先生。

  • サクラは諦めたように、けれど嬉しそうに小さく頷いた。

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