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私が藤沢家に生まれて、今日で23年を迎えた。
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祖父が付けてくれた「柚月」という名には、これといって深い意味はなく、
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朝食時、エスプレッソを飲んでいるときに突如閃いたとかで。
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初孫の名付けにその閃きを即採用だなんて簡単過ぎないか…とは思ったけど、
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祖父はいつも、即断即決みたいなことがあるからなんとなく頷ける。
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そんな祖父は、なかなかの名医で。
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23歳というこの年齢で、大学病院の救急救命センターに外科医として勤務している自分は、
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少なくとも祖父のそんな血筋の洗礼を受け過ぎているのかもしれない。
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IQが高いとかで逸脱している私の経歴には、
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羨望やら嫉妬やら、いろんな感情がぶつけられることもしばしばあって。
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大学の教授たちからの強い風当たりは、いつも本当に疲れる。
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おそらくは、
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生意気な小娘、みたいに思われているのだろう。
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一代で築き上げた総合病院から祖父は一線を退き、
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現在は父が院長を務めるその病院を、やがては私が継ぐことになるだろうから。
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大学病院での経験は、きっと自分の糧になる。
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たとえ色々ときついことを言われようが、とにかく今は持ち前の気質で乗り切ろうと思う。
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ユヅキ
……
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…それにしても。
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23年という年月を生きてきて、ふと思ったことがある。
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それは、
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未だかつて、「恋」と呼べる経験をしたことがないということ。
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彼氏いない歴23年という、輝かし…くもない歴史を普通に辿ってしまっている。
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こんなことを思うのも、
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最近失恋してまだ数ヶ月しか経っていない友達に、また新たに彼氏ができたからなのかもしれない。
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ユヅキ
(…自分、影響受けすぎ、)
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つまらないことを気にかけてしまったんだと、そう思いながらも。
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ユヅキ
…、
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やっぱり、この歳で恋愛経験が皆無とか、
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地味にヤバくないか、これ。
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introduction. END
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