2冊目:聞こえた音とキミの声

 今日の天気は、少し雲が流れているものの出掛けには十分すぎるくらいに太陽がよく見える。そんな空の下、休館で人がいない図書館の出入り口の前でひとり待ちぼうけているのはなんと滑稽だろう。
 俺が待ち合わせ場所に着いたのは、十三時五十五分頃。つまりは約束した時間の五分前。
 念のため持ってきた腕時計に視線を合わせると、時計の針は既に十四時七分をさしている。足元に置かれた灯りのついていないランタンが、待ち飽きている俺の気持ちを表しているようだった。

「……遅」

 正直、約束通りに来るだなんて思ってはいないし、いつものことだから期待なんてしていない。だけど、「自分が行ってもいいのか?」という質問をしておきながら、なんだかんだで楽しみにしていたのはどう見てもアオイのほうだったし、今日くらいはちゃんと来ると思ってたけど、やっぱりそんなことはなかったようた。
 というより、よくもまあそんなんで普通に図書館に勤めていられるなと、寧ろ感心してしまう。こういう時だけ遅刻するというのは、当事者側からしたらそれとこれとは話が別なのだろうか。
 こうやって待たされている時というのは、待ち人が遅れている分の時間を埋めるようにして、どうしてかその人のことばかり考えてしまう。
 ……最悪、来れないような出来事に見舞われている可能性も無くはないのだから、それは当然なのかも知れないけど。

 そんなことを考えながら、出入り口の少ない階段に設置された手すりにもたれ掛かっていると、遠くから見たことのある人物が走ってくるのが見える。ああ、やっと来たか。その言葉を代弁するかのように、俺の口からはため息が溢れ出ていた。

「ご、ごめん遅れた……っ!」

 息を切らしてやって来たアオイの髪の毛は、走ってきたからなのか、それともただの寝癖なのか。とにかくいかにも急いで家を出てきました感が漂っている。アオイの場合は多分両方だろうけど。

「……まあ、時間通りに来るとは思ってなかったから別にいいけど」

 そう、そうなのだ。別にアオイが時間通りに来るだなんて最初から思っていないし、遅れてくることに関してはわりとどうでもいい。

「リベリオさんの小説読んでたら夜が明けてて、気づいたらそのまま寝てた……。本当にごめん……」

 ただ、その遅れる理由がいつも『小説を読んでいたら夜が明けていた』というのがどうにも気に入らない。というかなんだその理由は。まるで、出掛けるのが楽しみでそわそわして寝られなかった子供みたいじゃないか。……まあ、小説を読んでたら夜が明けてた
っていうのは僕もそれなりにあるから何も言わないけど。

「別に何でもいいけど、そういう生活してるといつか死ぬよ?」
「は、はは……そうだね……」

 自分のことを棚にあげた言葉をアオイに向け、足元にあるランタンを手に取る。カラリという音が、やっとこの場所から動くことが出来るという俺の気持ちの現れに聞こえた。

「じゃあ、さっさと行こうか。誰かのせいで十分も過ぎちゃったし」
「ちょ、ちょっと待って反省してるから置いてかないで!」

 別に怒っている訳ではないけど、こうやって少し嫌味ったらしく言ったところで、遅刻する人っていうのはこれから先も遅れてくるということを、俺はこの遅刻魔のお陰で十分理解している。
 きっと、この気持ちは待たされる側じゃないと分からないだろうけど、だからといって分かって欲しいとも思わない。
 待っている時間というのも、案外悪くないのだから。
1/5ページ