20話:誰も目には映らない

 ――今から約一週間ほど前、『神崎 拓真』という人物が車に轢かれる交通事故があった。同学年の『宇栄原 渉』が駆け付けた時には既にことは終わっていたらしく、手にしていた携帯電話で救急車と警察を呼んだとのこと。事故が起きた時点での目撃者は依然として見つかっておらず、初夏に起きた『雅間 梨絵』という女子生徒が事故で死亡した件とほぼ同じ場所で起きていることから、同一犯の可能性あり。並行した再調査を求める。
 また、その神崎君の事故が起きた数日前、とある公園でひとりの男子高校生が何者かに鋭利な刃物で執拗に刺され殺害されるという事件があった。
 彼の名前は『橋下 香』。彼の家とは別方向だった為、帰宅途中に起きたことではなく何処かに向かう途中だったのではないかと我々は推察するも、これに関しても情報が無く捜査は難航している。衣服の乱れからかなり揉めたという痕跡と、異常なまでの刺し傷の量を見るに、何らかの恨みを買っていたのではないかという推察止まりのまま、事件解決には至っていない。

// しかしながら、『十年ほど前に起きた事件』に何かしらの共通点が無いか当時の担当刑事に話を聞く必要あり。//☆カット

 そしてもうひとつ。これら事件に直接関係しているとは言いがたいが、彼らと同じ学校に通っていた『相谷 光希』という人物が、神崎君の事故が起きた二日後、夜遅くになっても家に帰ってこないと保護者から連絡が入った。その連絡を受け、俺と『池内(いけうち)』はすぐに家に向かい目ぼしい場所の捜索をしたが、今も行方が分かっていない。
 彼と同じクラスだった人物らによると、どうやら相谷君は橋下とは交流があったらしく、橋下君は別学年であるにも関わらず相谷君の教室にまで足を運んでいたらしい。そして更に神崎君と宇栄原君と一緒にいたという証言が複数から取れた為、事件に何らかの共通点がないか洗い出す必要がある。
 また、その他に『相谷君に接触していた人物』が居たという噂程度の話が耳に入るも、その人物の特定にまでは至っていない。
 その他、『二年ほど前に相谷家で起きた事件』に関しては、特別関連性が無いとしながらも、相谷君の行方が分かっていないことから改めて調書を見直すなどの――。

「せんぱーい? ……あ、やっぱりいた」

 ……必要がある為、これら全てに関連性がある案件を、今後『村田(むらた)』と池内に回すよう要請を求める。

「いい加減帰りません? ずっと泊まりっぱなしじゃないですか」
「お前は帰ればいいだろ。俺は居るから」
「えー……。そんなこと言われたら帰れないんですけど」
「強要はしてないからな。お疲れさん」

 池内の言葉を適当にあしらい、俺は再び資料に目を向けた。

「……どこまで遡ってるんですか?」
「全部だよ」

 簡素なテーブルの上には、相谷君に関連付けられる可能性がある今までの事件の詳細が書かれている無数の紙束が、時系列順に並べられている。

「何から何まで全部、頭に入れ直す必要があるんだ」

 全ての事件が果たしてどれだけ彼に繋がっているのかはさておき、同じ学校の知り合いと思われる人物が立て続けに事件に巻き込まれるというのは、疑問を提示せざるを得ないというものである。
 相谷君がまだ見つかっていないという部分からして、例えば相谷君が何らかの形で関係しているという一番最悪の状況が否定出来ないが、可能ならばそれは考えたくない。ただそんなことを口にしたら、私情を挟むなと何処かの偉いさんに怒られそうだ。

「……何か飲みます?」
「帰るんじゃ無かったのか?」
「そこまで薄情じゃないつもりですけど」

 池内は、俺の返事を聞く前に「コンビニ行ってきまーす」とさっさと出ていってしまう。彼奴のことだ、適当に見えて俺がいつも飲んでるヤツを買ってくるのだろう。

「何が、足りないんだ?」

 思考を巡らせるという行為は、当然ながらここに来るまで何度もした。しかし、その答え合わせを誰も容易にさせてはくれない。捜査というのはそういうものだ。
 ふと、二年前の相谷君の件について書かれている調書が視界に入る。思わず眉間にシワが寄った。当時のことが昨日のことのように思い出せてしまうのは、それくらい印象に残ってしまっていると言うことだろう。
 ……調書に残るくらいなのだから、当然そこに良い意味は含まれてはいない。
1/3ページ
スキ!